I Saw Her Standing There (McCartney/Lennon, 1963)
ジョージが歌中で弾くオブリには繰り返しがほとんどなく、とりわけ曲の中盤で聞かれるアルペジオはポールのヴォーカルとの相乗効果によってオーディエンスを高揚させるという面で効果的である。また、鋭いストロークで刻まれるジョンのギターはコード楽器というよりはパーカショうよりはパーカッションの役割に近く、4拍目の裏で6弦を引っ掛ける「アウフタクト」が曲にスピード感を与えている。
Misery (McCartney/Lennon, 1963)
ギターとピアノのユニゾンで弾かれる冒頭のコードのサウンドを完全に再現することは非常に難しい。オリジナルのレコーディングではテープの回転速度を落として後からピアノがダビングされているためアルペジアーレの発音タイミングが完全に一致するが、生演奏でそのように演奏することは現実的にはほぼ不可能だからである。そこで今回はジョージマーティンとほぼ同じ方法で事前にレコーディングしたサウンドを使用することにした。MIDIギターを使用することでも同様の効果を得ることができるだろう。
Anna (Go To Him) (Arthur Alexander, 1962, covered in 1963)
リンゴのドラムは原曲のリズムパターンをほぼ忠実にトレースしているが、Arthur Alexanderのオリジナルがオンビートで開始しているにのに対し、ビートルズ版ではスネアが半拍先行することで心地よい緊張感が加味されている。この緊張感を活かして演奏するためには「フォーカウント」は極力避けるべきだろう(欲を言えばノーカウントで身振りだけで合わせるのがベストである)。
Chains(Gerald Goffin /Carol King, 1962 , covered in 1963)
基本的なグルーヴはThe Cookiesの原曲を踏襲しているが、イントロにハーモニカを加えたことでよりポップな印象に仕上がっている。ジョージのギターはオリジナルでホーンセクションが受け持っていた役割を担っている。特に注目してほしいのが「音の長さ」が厳格に意識されたポールのベースプレイである。イントロはテヌート、テーマ部分は休符を意識してリズムを強調し、中間部ではレガートでウォーキングしている。殊更に「メロディベース」ばかりが強調されがちであるが、実はこのような点にこそベーシストとしてのポールの優秀さが表れている。
Boys (Luther Dixon/Wes Farrell, 1960, covered in 1963)
1960年にThe Shirellesがリリースした原曲を聴くと、ピアノのリフが主体となっているためビートルズ版とはかなり異なった印象を受ける。ビートルズのアルバムにおいてもピアノのサウンドはデビューアルバムから聴くことができ、セカンド以降その使用頻度は次第に増えていくが、初期のビートルズのピアノの使い方と、カバー作品の原曲のピアノを比較すると、初期のビートルズではピアノが使われてはいても、ギター主体のサウンドに仕上がるよう注意深く使用されていることがうかがわれる。
Ask Me Why (McCartney/Lennon, 1963)
基本的な構成はビートルズの曲に頻繁に見られる[A]-[B]-[A]の三部形式である。だが、リピート時のみ[B]の前に[A’]が挿入されているため、聴感上は実際の形式以上に複雑に感じられる
Please Please Me(McCartney/Lennon, 1963)
“Please please me oh yeah”と歌われる箇所でジョンとポールの声部が交差しているため、聴感上は主旋律がジョンからポールへと受け渡されているように響く。つまり、ビートルズのコーラスワークは主旋律とハーモニーが主従の関係にある「ハモリ」ではなく全声部が同等の関係で拮抗しあう「ポリフォニー」に近いものなのである。